日刊早坂ノボル新聞

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夢の話 第541夜 墓場の隠し金

夢の話 第541夜 墓場の隠し金
 10日の午前11時頃、病院のベッドで横になっていた時に観た夢です。

 夢の中の「オレ」は看護師。警察病院に勤務している。
 今日のオレの担当は、70歳台のジジイで政治犯だ。
 60年代に過激派として活動し、何箇所かに爆弾を仕掛けたヤツだった。
 その犯人が長く服役し、今は死出の床についている。

 「ああ」
 そのジーサンが目を開いた。オレが点滴を取り替えているのを、じっと見ている。
 「ねえ、あんた」
 「はい?」
「あんたはどこの生まれなの?」
「G県ですが」
「やっぱりね。言葉を聞いていて、そうじゃないかと思っていた。俺もそのG県だからよく分かる。どの辺なの?」
猿橋村です」
 ジーサンが「ふう」と溜息を吐く。
 「そっか。俺はその隣の馬飼町で育ったんだよ」
 同郷人だったのか。
「そうでしたか」
 ここで唐突にジーサンがオレの左手を掴んだ。
 「同郷人のよしみで、君に良いことを教えてやろう。猿橋村の奥に行くと、県道が行き止まりになっている。その手前に墓地があるんだよ」
「そこなら知っています。母方の祖父の墓がありますから」
「その西側の隅に俺の家の墓がある。俺の苗字は1軒だけだから、分かりよいだろ」
 オレはここでベッドの名札を見た。
 確かにあまり聞かない名前だ。
「目印はその墓だ。そこでその墓を背にして、右手に三十歩進め。すると、そこには大きな杉の木がある。それをすり抜けて木の裏側に回ると、幾つか祠が並んでいる」
 「そこに何かあるんですか」 
「黙ってちゃんと聞け。その祠は江戸時代に起きた一揆の首謀者たちを祀ったものだ。そいつらは、豪商を襲って民に分け与えたのだ。それが俺の先祖で、俺の家では代々の墓とは別に、その祠を守って来た」
「そうなんですか」
 ジーサンの目が輝く。
 「その祠のどれかの下に3億円の金塊を隠してある」
 「へ?」
 「君は70年代のD銀行強盗事件を知っているか」
オレは70年代生まれだから、ニュースを見たわけではないが、話としては知っている。
「まあ、聞いたことはあります。都心の銀行に賊が押し入り、貸金庫を荒らした事件ですね」
「あの犯人が俺だ。俺たちは来るべき革命の準備のために、軍資金を強奪したのだ」
 なるほど。それで金が消えてしまったのか。確か現金が8千万くらいで、あとは顧客の金庫のものだ。
「それが金だったということですか」
「そうだよ。ゲホゲホ」
 このジーサンは肺癌で、もう歩くことが出来ない。十日前に刑務所からここに移されたが、あと数日で死ぬ筈だ。
「同郷人だし、君にそれをやろう。俺はもう行けないからな。俺の遺産だと思って受け取ってくれ。金はジュラルミンのケースに入っている」
 唐突な話し出し、オレは何とも答えることが出来ない。
「ただ気をつけろよ」
 「はい?」
 「一箇所の下には爆弾がある」
「そいつも埋めてあるんですか」
「うん。振動でスイッチが入る。カチッと言ったら、その2秒後くらいに爆発する。まあ、埋めてからだいぶ経ったから、起動しないかもしれんし、近くを歩いただけで爆発するかも知れん。なるべくその音がしないことを祈るんだな」
 そう言うと、ジーサンは目を瞑って眠りに落ちた。

 土地勘はあるから場所は大体分かる。
 「ものは試しに行って見る手なのか。それとも・・・」
 金か、あるいは爆弾のどちらかが待っている。
 思案しながら病室を出ると、医師の一人が立っていた。これから診察に向かうところらしい。
 「先生。ここの患者さんに遺産をやるって言われました」
 医師が苦笑する。
 「25年も服役していたヤツだよ。何の財産がある」
 ここで「昔、強奪した金だ」とは、もちろん、言わない。
 「それに犯罪者ってのは嘘を吐くもんなんだよ。証拠があり、証人がいても、死刑になる直前まで『俺は無実だ』と叫ぶ。それが犯罪者なのさ。あとは作り話だ。『隠し金がある』とかも、この手の輩が好きそうな作り話だ。実際に行ってみても、まずそんなものはない。死ぬ間際に他のヤツをからかってやろうと考えるんだな」
 「そうでしょうか」
 「そうだよ」
 医師はそう言い置くと、さっさと病室に入って行った。

 オレはそれから三日間考えたが、結局、行ってみることにした。
 もし行かなければ、これまでと何も変わらない。行って何も無ければ、やっぱりこれまでと変わらない。行って、金が見つかれば大儲けだ。
 「これまでと何も変わらないことを前提にすれば、別にOKじゃねーか」
 ま、たまたま、親族の法事があり、郷里に行く用事が出来たことも背中を押した。

 そこでオレは花を持って、昼日中にその墓地に行った。
 これなら傍からも「ご供養に来た」ように見える。
 墓地に入ると、驚いたことに、あのジーサンが言った通りの間取りで、古ぼけた墓標が並んでいた。もう何年もまったく人が訪れていない佇まいだから、ひと目を気にする必要は無かった。
 墓地の奥に進むと、杉の大木の裏に、祠が並んでいた。
 「すごいね。あのジーサン。本当のことを言っていたのか」
 でも、宝があるかどうかは話が別だ。それに、宝でなく爆弾の方を掘り当ててしまうことだってあるわけでさ。
 祠の数は十二個で、そのうちの一つに金が埋まっているかもしれないし、金ではなく爆弾かもしれない。
 幸いなことに、オレには女房も子どももいないから、オレが突然死んで、途方に暮れる者はない。

 「さて、どこから行こうか」
 こういう時の定法は、最後から二三番目当たりか最初から二三番目だ。
 人は何となく、そこに置きたくなってしまう。
 でも、金でなく、爆弾の場合も同じだ。
 オレは慎重に掘り始めた。大体、一メートルも掘れば掘った後かどうかは分かるというから、そんなに面倒ではない。
 だが、ひとつ掘り、二つ掘り、三つ四つと掘っても、何も出ない。
 過去に何かを掘った形跡も無かった。
 十個目に至り、ようやくオレは真相に気が付いて来た。
 「やはり先生の言った通りだ。あのジーサンはオレをからかおうと思ったんだな」
 たぶん、オレがあのジーサンの立場なら、きっと同じことをするだろう。
 馬鹿な若者が、年寄りの言葉を真に受け、欲望のまま地面を掘り返している姿を想像するだけで楽しめる。
 「同郷人だし、オレとあのジーサンは似た者同士なんだな」
 ここでスコップを下ろし、地面に尻をついた。

 残っている祠はあとひとつだけだ。一番手前のヤツがそう。
「まあ、何も出ないだろうな」
 しかし、あと一つなら、ここで止める者はいない。
 「でも、あのジーサンの言う通りなら、ここには金か爆弾が眠っていることになる」
 もし事実なら、爆弾がある可能性も半分だ。
 祠を動かして、地面を掘り始める。
 30臓■毅悪造板Δ辰討發笋呂蟆燭盻个覆ぁ
「駄目じゃんか。やっぱり一杯食わされたな。畜生」
 いい加減、腹が立って来たので、オレはスコップを思い切り穴に差し入れた。
 すると、スコップが何か硬いものに当たった。

「カチン」
 「背筋が震え上がる一瞬」とはまさにこのことだ。
 爆弾は「カチン」から二秒後に爆発する。
 オレは穴の縁に飛びついて、そこから転がり出た。
 「くそう。やられたか」
 頭を抱えて地面に伏せる。
 火急の時だが、オレの頭には、映画で観たある兵士の言葉が響いていた。
「爆弾の側にいる時には、衝撃波で脳を振動させないように、口を開けなくてはならない」
 その言葉に従って、オレは大口を開けて爆発に備えた。

 そのまま一秒二秒三秒と時間が過ぎる。
 二分くらいが過ぎたところでオレは体を起こした。
「爆発しねえな。どうなってるの」
 恐る恐る穴の方に近寄る。
 すると、穴の底に見えていたのは、腐りかけの木箱の縁だった。
 スコップが箱の端の金具に当たったので、「カチン」と音が鳴ったのだ。

 「ああびっくりした」
 爆弾ではなかったが、あのジーサンが言っていたようなジュラルミン製の箱でもない。
 腐りかけた木箱だった。
 「これはもしかして昔の棺桶なのか?」
 さすがにゲンナリする。

 やはりここには金も爆弾も埋まってはいなかった
 「あのジーサン。やっぱりオレのことをからかったんだな」
 がっかりして、再び穴から出ようと、縁に両手をかけた。
 その瞬間、足の下にあった木箱の蓋が割れ、オレの両足は箱の中にずぼんと落ちた。
「うええ。気色悪い」
 この時、オレの頭にあったのは、棺桶の中の死骸にオレの足が突き刺さるイメージだ。

 しかし、よく確認してみると、そうではなかった。
 そこに埋まっていた木箱は棺桶ではなく、千両箱だった。
 開けてみると、その中には小判が少なくとも八百枚は入っていた。
 「なるほど。あのジーサンの先祖が埋めた物か」
 ジーサンの先祖は一揆の首謀者だと言っていた。
 そいつらは豪商を襲い手に入れた金をここに隠していたのだ。
 だが、これを持ち出す前に捕まってしまったというわけだ。

 「あのジーサン。オレのことをからかおうと思って嘘を考え出したが、結果的に、お宝のところにオレを導いてくれた」
 何事も信じる者に好機は来る。

 ここで覚醒。