日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

◎レシピ通りの盛岡冷麺

盛岡冷麺(戸田久)

レシピ通りの盛岡冷麺

 高二の時に隣の席のタナカコーヘイ君(西根町出身)が「インスタントラーメンを茹でる時には絶対に動かしたらダメだ」と力説した。

 それを聞いた時に、当方は上の叔父のことを思い出した。

 

 小学生の時、家に独りでいると、この叔父がぶらっとやって来て、「腹は減ってるか?」と訊いた。

 こっくりと頷くと、叔父は「なら少し待ってろ」。

 叔父は台所に立つと、野菜炒めを作り始めた。

 それが出来ると、日清の塩ラーメンを取り出し、それを作って野菜炒めと合わせた。

 すぐに食べさせて貰ったが、普段食べるその同じ麺とまるで違う。

 「旨いか?」と訊かれたので「ウン」と答えると、叔父は「きちんと丁寧に作れば、一枚も二枚も上のものになる」と言った。

 母は入院中だし、父は一人で仕事を切り盛りしていたから、息子たちのことはおざなりだ。「おざなり」というのは正確ではなく、「生きるのに必死だった」から手が回らなかった。

 それくらいは子どもでも分かるから、不満に思ったことはない。

 父は中学の時も高校の時も、進路指導の面談では「コイツのやりたいように」とだけ教師に伝え、あとはずっと釣りの話をしていた。高校の担任はタカノミツエという先生だったが、最初から最後まで、またさらに時間を延長して釣りの話をしていた。

 次の女子生徒は長々待たされただろうから、部屋を出る時に少し恐縮した。

 三者面談で「生徒の進路の話がひと言も出て来ない」ケースは他にもあったのかどうか。でも父が父なら先生も似たような調子だった。悪気はないし、父で慣れている。

 

 脱線したが、叔父のラーメンの感動が先にあったので、タナカ君の話も耳に残った。

 大学に入り、独り暮らしをするようになって、初めてタナカ君の言葉を思い出し、麺を動かさずに即席麵を作った。もちろん、つけ合わせは叔父流できっちり作るから、不味いわけがないのだが、改めて納得した。

 それ以来、時々、叔父とタナカ君の言葉をワンセットのように思い出す。「まずは基本に忠実に」「手を抜くことなく懇切丁寧に手順を踏む」ということだ。

 当方が即席麺を作ると、食べた人は「ちょっと違う」と感じると思う。それは総て叔父とタナカ君のおかげだ。

 

 この夏に頂いた盛岡冷麺の賞味期限が近づいたので、今は連日、夜は冷麺だ。ちなみに複数か所から段ボール箱で頂いたので、80食くらいの盛岡冷麺があった。

冷麺はカロリーが少ないからダイエットになる筈だが、今の当方にダイエットは必要ない。

 さすがに毎日だと飽きが来るし、つけ合わせの味噌汁感覚になる。作り方もおざなりだ。

 ここで不意にタナカ君と叔父のことを思い出したので、この日はきちんと作ることにした。

 つけ合わせは和風朝鮮漬け(キムチではない)と鶏の煮物、茹で卵と梨だ。盛岡冷麺は夏には西瓜だが、秋以降は必ず梨で、ここにりんごを入れるのは「邪道」になっている。

 レシピはトダキューさんの指定通り。レシピ通りに作れば、そこでトダキューさんの力量も分かる。

 肉のみ牛ではなく鶏だが、これは健康上の理由で、脂を落とす都合による。鶏も脂が多いのだが、下茹でし味を付ける時点で大半を落とせる。牛肉の場合はどうしてもサシが残るし、落とすと旨くなくなる。ここは病人の辛いところ。

 

 味はさすがレシピ通り。分量ばっちりで、スープの濃さもちょうど良い。きちんと作ればやはり旨い。

 トダキューさんは常に研究開発を怠らぬから、即席麵の味が時々変わる。実家が商店なので、地元の製品は全品目を食べてみるのだが、トダキュー冷麺も常に「進化している」と思う。

 十年前のつくりとは別のものになっている。

 

 冷麺の麺は押し出した五分後には変質が始まり味が変わるので、焼き肉屋では必ず作る時に麺を機械で押し出す。冷蔵麺だった頃はこの変化に抗えず、味に癖が出たのだが、今はこれが殆ど無くなった。今のは半乾麵だが、どういう技術を開発したのだろう?

 東京でも「盛岡冷麺」を置く店が増えて来ているが、多くはトダキュー冷麺を使っている。従前は「即席麺」であることから、地元出身者は少しがっかりしたのだが、今の技術水準なら充分行けると思う。ま、生麺で、さらに懇切丁寧に作れば、やはり差は出るとは思う。

 

 ああ、早くロト7で十億を引かぬと、都心の駅前で立ち食いの「南部柏蕎麦屋」や「立ち食い冷麺屋」が出来なくなってしまう(W)。

 蕎麦の方はやっぱり二戸方面産だろう。これは盛岡の人でも味を知らない。

 総てのイメージをぶっ壊してやりたいもんだ。

 

 結局、脱線したままだが、同期のタナカコーヘイ君は、まさか自分の発言を当方が「自分の生き方を振り返るキーワード」にしているとは思ってはいないだろうと思う。

 最近、意図的に「食べる」ことを心掛けているが、そのことで徐々に体力と気力が向上して来たように感じる。

 

 昨年の十月頃に、悪霊に腹をひと突きされたのが、ここまで回復するのに丸一年掛かった。ようやく戦える状態に戻りつつある。

 つい数か月前には、酸素吸入をしていたが、少しはましになったらしい。