日刊早坂ノボル新聞

日々のよしなしごとを記しています。

#小説

解説「九戸戦始末記 北斗英雄伝」: 天魔源左衛門という人物

天魔源左衛門は謎の人物である。 16世紀の末には南部地方、北郡(きたのこおり)の七戸家国の配下の者だったようで、乱破衆すなわち忍者であったと伝えられる。 現在でも、下北に向う手前に「天間」という地名が残っている通り、実在の人物だったようである。 …

「北斗英雄伝」の世界 その3 (盛岡タイムス紙 1月1日号掲載)

◇物語前半の主な登場人物◇ ☆厨川五右衛門とその仲間たち☆ ○厨川五右衛門宗忠(疾風、三十台前半):岩手郡の日戸内膳の配下で武術の達人。 ○三好平八(四十五歳):元は上方侍で三好康長の隠し子。葛西・大崎の一揆に乗じて北奥に落ち延びる。疾風と行動を共に…

「北斗英雄伝」の世界 その2 (盛岡タイムス紙 1月1日号掲載)

☆風雲・散花の章 疾風一行は三戸を脱するが、すぐに東一族の追手に追いつかれそうになる。しかし、三戸城中で疾風と東一刀斎との試合を見ていた工藤右馬之助が、道を先回りして待っており敵を追い払う。一行は右馬之助の手引きで、二戸宮野城へ入る。 宮野城…

「北斗英雄伝」の世界 その1 (盛岡タイムス紙 1月1日号掲載)

「北斗英雄伝」の世界 早坂ノボル ◇正月特集:九戸政実とその時代◇ ☆謎の多い「九戸の戦」 北奥(岩手・青森・秋田)に生きる者にとって、九戸政実ほど想像心を掻き立てられる人物はいない。改めて言うまでも無く、九戸政実は戦国末期にあって、天下人・豊臣…

第9話 そどめの花の話  (津軽地方。「そどめ」=アヤメのこと)

「そどめの花」の話 (「そどめ」とはアヤメのこと) 今は昔。あるところに父母と娘で暮らす三人家族があった。商人であった両親は一所懸命に働き、暮らしにいくらか余裕も出てきたが、娘が10歳になった頃に母親が病気になり、母親は手当ての甲斐も無くそ…

天正19年九戸戦前後の領知区分図

画像は、豊臣秀吉による南部信直への7郡安堵の構成を示しています。天正18年の小田原攻めの直後では、南部七郡は三戸、二戸、九戸、北、岩手、閉伊、鹿角を指します。天正19年では南部七郡に志和、稗貫、和賀が正式に加わり、糠部、岩手、閉伊、鹿角で7郡…

「九戸戦始末記 北斗英雄伝」 其の八 春時雨(はるしぐれ)の章

☆この章のあらすじ☆ 南部信直はうたた寝から醒めると、前年に小田原で拝謁した秀吉のことを思い出した。異形の天下人・秀吉は大そうな勘気の持ち主で、信直の目の前で、己の意に添わぬ侍女を危うく絞め殺すところであった。「今のままでは秀吉の不興を買い、…

其の七 雷鳴の章

其の七 雷鳴の章 ◇この章のあらすじ 疾風は小次郎に「政実が宮野登城を要請している」ことを聞き、すぐに日戸郷を出発する。沼宮内では小柄な相撲取りの山の上権太夫、小鳥谷では孤児を拾っては寺に届けるお芳など、戦国を生きぬく様々な人々に出会う。 一戸…

九戸政実の人物像 その1

『寛政重修諸家譜』では、浅野家伝として、九戸政実が浅野長吉に申し出た降伏の条件は、一に「南部信直の所領の安堵」だったと書かれています。明らかに三戸サイドになるはずの記述の中で、この部分がとりわけ異彩を放っています。 何せ九戸政実にとっては宿…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の六 散花の章

其の六 散花(ちりばな)の章 <この章のあらすじ> 南部信直による九戸侵攻を撃退した後、法師岡館主・櫛引清政は自領に帰り、兄の清長にそれぞれの息子が1人ずつ戦死したことを伝える。兄弟は直ちに報復を企図し、櫛引一族だけで南弾正盛義のいる浅水城を攻…

第8話 魚の女房の話  (雫石地方)

第9話 魚の女房の話 (雫石地方) 今は昔。ある所に正直な漁師がいた。川で網を打ったり、釣ったりして雑魚を取り、その日暮しをしていた。元々欲が無いから金儲けをしようとは思はず、余分に獲った魚などは川へ放してやるほどだったので、家はひどく貧乏で…

第7話(怪異譚) あの世に引きずり込まれそうになる話

第7話(怪異譚) あの世に引きずり込まれそうになる話 この話は知人の実体験である。生々しさを減じるために、場所と時代背景を替えて記すものとした。 今は昔。奥州道を一人の男が北を目指して歩いていた。男は薬売りで、今朝方盛岡を出立したのだが、その…

第6話(怪異譚) 山姥に妻を食われる話 (御明神村:現雫石町の話)

第6話(怪異譚) 山姥に妻を食われる話 (御明神村:現雫石町の話) 昔話では、山姥(やまうば:山に棲む老婆姿の化け物)も重要な登場人物の1人である。この話は、山姥に妻子を食われる類の話の中で、最もシンプルなパターンである。 今は昔。あるところに夫…

第5話(怪異譚) 芦名沢の小豆洗いの話   (馬場:現盛岡市の伝説)

第5話(怪異譚) 芦名沢の小豆洗いの話 (玉山村馬場:現盛岡市の伝説) 昔話では、数多くの妖怪が現れる。これは、日本中で知らぬもののない有名な妖怪「小豆洗い」の話である。 盛岡から奥州街道を北に進み、半日すると渋民の宿に着く。ここで一休みし、…

第4話(女傑伝説) おれんの話  (玉山:現盛岡市の伝説)

第4話(女傑伝説) おれんの話 (玉山:現盛岡市の伝説) 昔語りには、必ず豪傑伝が出てくるが、女傑の話も少なくない。これもそんな話の1つである。 今は昔。巻堀の岩崎から玉山城の玉山氏へ、「おれん」という娘が嫁いだ。おれんは美人の上に怪力の持ち主…

第3話(怪異譚) 化け物屋敷の怪   (西山村:現雫石町の伝説)

第3話 化け物屋敷の怪 (西山村:雫石町の伝説) 西山村の上長山に古びた藁葺き屋根の家があり、そのすぐ後ろの川べりには何百年も経たと見える河原柳が立っていた。雨後のタ日には、緑の小枝がやんわりと座敷の辺りにしだれ掛かっている。その柳の根元は朽…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の五 風雲の章

この章のあらすじ] 疾風一行は三戸を脱したが、すぐに東一族の追手に追いつかれそうになる。しかし、三戸城中で疾風と東一刀斎との試合を見ていた工藤右馬之助が、先回りして待っており、敵をを追い払う。一行は右馬之助の手引きで、二戸宮野城へ入るが、宮…

あんたのファン

先日、ある本の編集に携わることになり、打ち合わせ会議に出ました。 ふだんの仕事とも、また時折書き散らしている散文の類にも関係の無い、郷土史に関連した本です。 会議がひととおり済んだ頃、近況に関する雑談になりました。 「最近はどんなのを書いてる…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の四 末摘花の章

[この章のあらすじ] 疾風一行は三戸に到着し、情報収集のため、伊勢屋という娼館を訪れる。そこには源氏物語を諳んじる「おへちゃ(末摘花)」という娘がいた。 おへちゃは一見して不器量な娘で、娼館では下女の仕事までこなす働き者である。身分を隠している…

「北斗英雄伝」:九戸神社にて

4月23日に九戸神社に参拝しました。 平日の朝でしたので、辺りに人はまったくいません。 九戸神社は、九戸村の総鎮守で、九戸家が代々戦勝を祈願したと伝えられます。 承和9年(842年)の建立とされ、神社内には、鎌倉末期(1330年)以前のものと推定される…

「北斗英雄伝」:16世紀末の日戸郷 玉山常陸について

話の冒頭で、玉山重光という日戸氏の家臣が出てきますが、これは実在した玉山常陸という人物を想定したものです。 玉山氏の祖は源頼朝に武功を認められた河村四郎の一族と伝えられます。 画像の館跡は、河村(玉山)小三郎が13世紀に築いたとされるもので、…

「北斗英雄伝」:16世紀末の日戸郷 日戸内膳について

話の発端に、岩手郡の郷士として、日戸内膳と玉山重光が出てきます。 このうち九戸の戦いでは、日戸内膳は南部信直方の武将として参陣しますが、知行1,300石で信直勢の中では上から11番目くらいの領主でした。 『聞老遺事』によると、参陣は配下の侍30人で行…

九戸宮野城の包囲陣

地図は「二戸市史」からの引用です。 (好意的引用のつもりですが、不適切であれば自作に改めますので告知してください。) 天正19年に、蒲生氏郷を初めとする6万を超える上方軍が、九戸宮野城を包囲します。 この時の布陣の模様については、様々な記述が行わ…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の参 悪鬼の章

[この章のあらすじ] 三好平八は前年の登米寺池城で起こったことを夢に見てうなされる。 目覚めた平八は、疾風たちに自らの見た豊臣秀吉の姿を語るが、秀吉は手指が六本、黒目が左右二つずつの凶相の持ち主だった。 一行は畝村を出発し、夕方になり伊保内に到…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 其の弐 残雪の章

[この章のあらすじ] 山館を出発した疾風と小次郎は、早坂峠を越え、畝村(現在の国境峠付近)に差し掛かる。この地は旅人を襲って金品を奪う盗賊一味がいるところで、疾風たちも襲われそうになるが、疾風があっさりと切り捨てる。 盗賊がそりに載せていた瀕死…

九戸戦始末記 北斗英雄伝 連載の始まり

4月より岩手の新聞(盛岡タイムス)にて、連載を開始します。 北斗英雄伝 其の壱 葛姫(くずひめ)の章 天正十八年の冬はいつもの年に増し寒さが厳しく、川という川の表面に厚い氷が張った。 その一方で、年の暮れまで雪はほとんど降らず、このため山の木々も…